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成年後見人と身元引受(身元保証)の問題

2021.09.15 更新

身元引受(身元保証)の問題

被成年後見人が施設に入所する際に、施設側から、(多くの施設では、身元引受人を付けること、親族などが身元引受をすることを入所の要件としているため)成年後見人に対して、本人の身元引受人(身元保証人)になるように要請されるようなことがあります。
身元引受は、一般的には、本人以外の者(身元引受人)が、(i)本人の介護等に関する決定を最終的に本人に代わって行い、(ii)本人の資力を担保する(=本人によって生じた損害を本人以外の者(身元引受人)の資力によって担保させる)、という仕組みであり、施設側が身元引受人に要求することは、(i)最終的に本人に代わって介護等に関する決定をすること、および(ii)本人の行為によって、施設の設備、備品、職員、他の入所者に損害を生じさせた場合で、本人に賠償の資力がないとき等に、その損害の填補をすることであると考えられる。
本人の行為によって、施設の設備、備品、職員、他の入所者に損害を生じさせた場合には成年後見人は、その権限の範囲内で、必要に応じて、本人に代わって本人の財産の中から賠償金の支払い等をしますが、本人に資力がないときに、成年後見人自身が自腹を切って賠償金の支払いをする義務はありません。同様に、成年後見人は、本人に代わって本人の財産の中から施設の利用料等を支払う義務を負うが、本人に資力がないため利用料等の支払いができない場合に、成年後見人自身は、自らの負担で使用料を支払う義務を負っていません。
つまり、少なくとも、本人の資力を担保・保証することは、成年後見人の職務権限(後見事務)ではないので、成年後見人は、被成年後見人の身元引受人となる必要も義務もありません。成年後見人に対して身元引受人となることを要求する施設には問題があるというべきです。

身元引受(身元保証)に対する施設側の認識

実際、多くの施設は、身元引受人の存在や意義をあまり厳格・厳密に考えているわけではなく、単に「緊急連絡先」や「本人が死亡した場合に遺体を引き取ってもらう人」が必要だから、といった程度の認識で、身元引受を要求してくることが多くあります。
被成年後見人が施設に入所する際に、施設側から身元引受人を要求された場合には、安易に身元引受人として署名等をするのではなく、担当者等に対して成年後見人の職務権限を説明し、職務権限の範囲内でできることと、できないことを理解してもらう努力が必要になります。
最近では、多くの施設が成年後見人の職務を理解したうえで、「原則として、身元引受人を付けることが、施設入所の要件であるが、例外的に、成年後見人が付いている場合には、身元引受人を必要としない。」としているケースもあるようです。

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